愛のかたまり
 その時、

 たすけて

 たすけて、

 たすけて、

 たすけて、

 たすけて、

 たすけて、

 たすけて・・・・・・

 もう一度、頭に直接響いてくる言葉。

 あの子のいっぱいに涙を溜めた瞳があたしを内側から激しくたたいた。

 あたしはかけよって剃刀を取り上げようとしたけれど、完全に意識を閉じた海さんは男の力で簡単に払いのけた。

 でも、やめるわけにはいかない。

 それはあたしに与えられた使命。

 そして目前にひろがる赤の世界。

 必死で揉みあううちに剃刀を直接握ってしまったらしく、あたしの手のひらは真っ赤に染まった。

 どくどくと流れる紅い血。

 裂けた皮膚からのぞく筋肉のピンクがあんまり綺麗で、自分のものでない気がした。
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