泣き顔の白猫
名波はそのまま店内の真ん中まで歩いて、一つの椅子に腰かけた。
浅く座って背に凭れて足を投げ出す、少しだらしない座り方。
加原は、その後を追って、カウンターの方に背を向けている名波の後ろに、背中合わせに座った。
なんとなく、向かい合わせでも、隣合ってでもない気がしたのだ。
背中越しに、名波の静かな呼吸が聞こえる。
「私、高校生の頃、すごく浮いてて。苛められてたとかじゃないんですけど、なんか、空気みたいで。時々、意味もなくうるさく話しかけられたり、目の前で笑われたり」
それは校長に聞いた話や、高校時代の名波の写真から、なんとなく想像のついていたことだった。
たった一人で机に向かって、静かに本を開いている、地味で内気な少女。
適度に距離をおかれ、時々ふざけて距離を詰められ、自分から人に干渉することは全くと言っていいほどない。
クラスに一人はいるような存在だ。
「ある時、急に畑野くんに、付き合ってほしい、って言われて。どうしてもって言うので、仕方なく、いいですよって言ったんです。きっとすぐ別れるつもりなんだろうなって。もしかしたら、クラスの女の子全員と一回ずつ付き合ってみるつもりなのかもと思って」
これはつまり、畑野優馬とはそういう人柄の人間だったと、思っていいのだろうか。
死者を悪く言うのは忍びないが、話を聞いた限りでは、事実としてありそうなことだと思ってしまった。