泣き顔の白猫
「そのうち、全然関係ないことまで。畑野くんとはどこまでいってたのか、とか」
その言葉に、加原の肩が跳ねた。
全く予想していなかった急展開に、背筋が冷たくなる。
「はじめてだったのとか、ちゃんと同意の上だったの、とか。なんにもしてませんって言っても、そんなことないでしょって」
取調室での心理戦というのは、もちろんよくあることだ。
動揺を誘って言質を取ることが必要になることもある。
だが名波が浴びせられた言葉は、ただのセクハラと言って憚りない。
加原は、自分の表情が険しくなっていることに気付いた。
証拠も出ていない、あくまで参考人である――しかも、十七歳の少女に対して、当時の捜査員が使った手は、あまりにも卑劣だった。
「女の子ってそういうの気にするんでしょ、って。体まで許したのに遊ばれてただけって知ったから、キレて刺したんだろって」
そういう、動機重視で強引に捜査を進める刑事というのが、ごく稀にいるのだ。
昔気質といえば少しは聞こえもいいが、要するに頑固で思い込みの激しい、一番人を裁いてはいけないタイプの人間が。
「なんか、そういうの聞いてたら、もうどうでもよくなっちゃって。ナイフから指紋が出たとか言われても、それで? って。ナイフを拾ったのは事件の一週間も後だったんですけど、何言ってもやっぱり聞いてもらえないし。……母が雇ってくれた弁護士さんは、とにかく刑期を減らすことだけ考えろって。別れ話から喧嘩になって身の危険を感じたとか、適当なこと言って、殺意はなかったと言い張って殺人罪は免れれば、なんとか十年以内に出てこられるって。だから護身用にナイフを持ち歩いてたことは認めなさいって言われました」
名波の声に、色が付きはじめる。