泣き顔の白猫
あとは認めるだけ、というところまで来ている。
加原にもそれはわかっていたが、その一歩はなかなか大きい。
名波の顔を見たままで数秒固まった加原に、彼女は不思議そうに小首を傾げる。
もう、無表情に戻っていた。
加原は、 はっと言葉を発する。
「あぁ……うん、そりゃ、まぁ。仕事のこととか……酒の飲み方とかまで全部、ヤスさんに教わったからね」
「ふぅん……」
そう呟いたきり、しばらく口を閉じる。
このゆっくりとしたマイペースな話し方が、つい口が先に回りがちな加原には、とても心地が良い。
考える時間と、なにも考えなくていい時間をくれるのだ。
「加原さんが働いてるのって、この近くなんですよね」
「ん? うん、すぐ近く」
考えてみれば、こうして名波の方から質問が来るのも、大きな前進かもしれない。
加原から一方的にでなく会話が成立するようになったのは、最近のことだ。