泣き顔の白猫

表情の変化のなさや態度から察するに、名波はそれほど人付き合いが得意な方ではないのだろう。
そんな彼女が自分から聞きたいことを聞いてくるというのは、とても特別なことのような気がした。

「私、あんまりこの辺は詳しくなくて」
「あれ?  でもずっと館町なんだよね?」
「えっと、あまり出歩かないので……最近建ったオフィスとかは、よくわかんないんです」

名波の物言いからなんとなく何かを察して、加原はそれ以上尋ねるのはやめた。
マスターをちらりと見るが、何かもの言いたげなのか、それとも二人の会話を聞いていなかったのか、または特に何も思っていないのか、判別はつかない。

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