泣き顔の白猫

二十三歳。
名波に初めて会った一ヶ月ほど前から最近まで、加原にとってはなにかとよく耳にする単語だ。

「そっか……」
「なんですか?」
「や、最近さ、市内で不審死事件多いでしょ。それがみんな二十三歳なんだって」
「あぁ……それ、新聞で読みました」

思い出すように顎に指を当てる仕草。
あんなにてきぱき動くのに、手は小さい。

「怖いよねー。名波ちゃん、気を付けてね」
「なんにですか?」
「うーん……夜道とか、足元とか?」

曖昧に言って、つい自分でも首を傾げてしまった。
名波が、少しだけ眉尻を下げて笑う。

「それ、言われるまでもなくみんな気を付けてますよ」
「ですよねぇ」

わざとさせたくなってしまうような可愛らしい苦笑いに、へらりと笑顔を返した。



不審死事件。
そうだ――あれは、“不審死”なのだ。
あくまでも。

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