泣き顔の白猫
一人目の鈴木学が死亡した時は、まだ誰も事件性なんて疑ってはいなかった。
二週間ほど前のことだ。
歩道橋からの転落死。
背の高い手摺を乗り越えて、車道にまっ逆さま、だった。
海沿いのバス通りで、歩道橋があるくらいだから、当然車の通りは少なくない道である。
午前一時という時刻だったからよかったようなものの、もしあれが昼間だったらと考えると、ぞっとする。
二人目も同じく転落死で、山田慎二(やまだしんじ)という男性だった。
館町の観光名所とともに事件スポットとしても地元民には知られる、立松岬という場所だ。
申し訳程度に作られた駐車場からは遊歩道が数十メートルほど下っており、その手摺の向こうには、崖が段差をつけてほとんど垂直に切り立っている。
転落事故なども多いし、以前はその辺りから身を投げる者も少なくなかったらしい。
自殺者がいるということは、そこから落ちれば死ねる確証がそれなりにあるということだ。
誤って落ちてしまえば、絶対に助からないというわけでもないが、可能性は絶望的と言っていい。