泣き顔の白猫

館町は海辺の町なので、そもそも転落事故自体は人間に限らず犬などでも、どこかしらでよくあることだ。
この町でレスキュー車のサイレンが鳴り響いたら、市民は大概、岬か防波堤で何か起きたかと考える。

山田慎二は、途中で引っ掛からずに、運悪く海面近くの岩場まで転がり落ちた。
いや、助かる方が奇跡的に運が良いのだから、ある意味では当然の結果とも言える。

夜間は立ち入り禁止の岬に何らかの理由で入ってしまい、たまたま手摺の外に転がり出てしまった、ただそれだけの不運な事故だと思われていた事態が急転したのは、三人目の死者が出た時だった。


被害者は塚原晃一(つかはらこういち)。

西埠頭の倉庫街の路上で、血を流して倒れているのを、朝釣りをしに通りかかった人が見つけた。
ナイフによる刺殺だった。

凶器は発見されていないが、刃渡り十センチ強ほどのものと見られている。
海に囲まれたこの町で、たったそれっぽっちの小さな凶器を捨てるのに、手間などほとんどかからないだろう。
浅くなければどこでもいいのだから。

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