泣き顔の白猫
(いや、今はそんな場合じゃ……)
加原は、ゆるりと頭を振って、ずっと考えていた疑問を口にした。
「死亡時刻自体はたいして不思議ではないんですよね、二十三歳だし、夜中に出歩いてても……でも、場所が不自然な気がしますね」
「歩道橋……は、館町駅から市電二駅分ってとこか。けど、コンビニすらない辺りだな……立松岬は夜間立ち入り禁止だし、塚原が刺された西埠頭なんて、昼間でもそう用事のある場所じゃねぇわな」
そう言って安本は、坂道を見上げる。
川尻健太が転げ落ちた階段の先は、小さな中学校だ。
観光名所も近いので日中は混むこともあるが、夜間の人通りは、ほとんどと言っていいほどない。
「ここにしたって、近くに居酒屋やバーがあるわけでもねぇ。この場所に用があったとは考えにくいな」
「それに……、同級生四人が、同じ時刻に死んでるなんて」
「偶然ってことはねぇだろうな。わざわざ一時に一人で外にいるタイミングを狙った、ってのも」
「ちょっと現実的じゃないですね。やっぱり、犯人に呼び出されたって考えるのが妥当じゃないですか?」
加原が言うと安本は、「あぁ」と唸りに似た声をあげる。