泣き顔の白猫


「え、と、それでだな、加原……」

安本が、躊躇いがちに声を出す。

それでもうほとんど確信に近い嫌な予感を感じて、加原は「ええぇぇぇ……」と唸った。

「まだなんも言ってねぇだろうが」
「だってだいたいわかりますもん、わかっちゃいましたもん」
「仕方ねぇんだよ、な? 四人が通ってたっていう高校に行って、ちょっと話聞いてくるだけなんだよ。頼むから、」

ちょっと出てきてくれねぇか。

頼むから、と言いはしたが、これは決して安本からの個人的な頼みなどではなく、組織からの出勤命令といっていい。
つまり、加原に選択の余地はないのだ。

まぁ、もしもそうではなかったとしても、安本の指示を断るという選択肢が、加原にあるはずもなかったが。


非番なのに、デートなのに。

恨みがましくそう独り言を呟きながらも加原は、パーカーをジャケットに着替え、革靴を履いて、家を出たのだった。

< 61 / 153 >

この作品をシェア

pagetop