泣き顔の白猫
「え、と、それでだな、加原……」
安本が、躊躇いがちに声を出す。
それでもうほとんど確信に近い嫌な予感を感じて、加原は「ええぇぇぇ……」と唸った。
「まだなんも言ってねぇだろうが」
「だってだいたいわかりますもん、わかっちゃいましたもん」
「仕方ねぇんだよ、な? 四人が通ってたっていう高校に行って、ちょっと話聞いてくるだけなんだよ。頼むから、」
ちょっと出てきてくれねぇか。
頼むから、と言いはしたが、これは決して安本からの個人的な頼みなどではなく、組織からの出勤命令といっていい。
つまり、加原に選択の余地はないのだ。
まぁ、もしもそうではなかったとしても、安本の指示を断るという選択肢が、加原にあるはずもなかったが。
非番なのに、デートなのに。
恨みがましくそう独り言を呟きながらも加原は、パーカーをジャケットに着替え、革靴を履いて、家を出たのだった。