泣き顔の白猫
『おかけになった電話番号は、現在電波の届かない場所にいるか』
抑揚のない口調で淡々と流れるそのメッセージに、こんなに焦りを感じたことは、今までになかった。
加原は通話を切って、携帯電話をマナーモードに設定する。
「用事あったか」
加原の服装を見て、安本が言う。
「……デートです」
唇を尖らせると、安本は片眉を上げて苦笑いを溢した。
「ああ、『りんご』の子と? デートならもう少し気合い入れた格好しろよ、お前」
「い、いいじゃないですかそれは……あぁあ、電話も通じないし」
「バスか電車でも乗ってんじゃないか?」
「ですかねぇ……」
加原は、携帯電話をジャケットの内ポケットに仕舞いながら呟く。
名波の居場所がわかるわけでもないのに、思わず校門の前にあるバス停をちらりと見てしまった。
ジャケットはいつも着ている背広ではなく、カジュアルな綿素材のものだ。
中はポロシャツのままだし、ジーンズも履き変えていない。
普段仕事の時はどれだけラフでもワイシャツにノーネクタイ程度なので、少し不安になる。
急いでいたのもあったが、終わってから直行できるかもしれない、と咄嗟に考えてしまったのだ。