泣き顔の白猫

彼は倒れていた生徒の担任ではなかったが、学内でも目立つ存在であるこの彼――畑野優馬(はたのゆうま)のことを、よく知っていた。

ムードメーカーだが少し羽目を外しすぎるところがある、どちらかというと問題児と言っていい生徒だ。

すぐに警察と救急車を呼んだが、彼も薄々わかっていたように、畑野優馬には、すでに息はなかった。
死因はナイフの傷による失血死、恐らく昨晩のそれほど遅くないうちに殺されていただろう、ということだった。


すぐに校舎裏は立ち入り禁止になり、現場はブルーシートで覆われ、校舎周辺を警察関係者がうろつくことになった。

登校して来た生徒は全員、体育館に集められた。
物々しい雰囲気に、すぐに様々な憶測が生徒間で飛び交う。

窓ガラスが割られていたらしい。
隕石が落ちてきた。
猫や犬の惨殺死体が、大量に積み上げられていたのではないか。
生徒が屋上から飛び降りた。
ホームレスがなぜか高校の校舎裏で、謎の死を遂げていた。

それぞれのクラスで姿の見えない生徒について、色々な説が上げられる。

やがて、畑野優馬と全く連絡がつかないことが判明するのに、時間はかからなかった。
「優馬、出ないんだけど」ゆっくりと振り向いた山田慎二が真っ青な顔でそう言った瞬間、嬉々として真相究明に加わっていた生徒たちの顔から、笑みが消えた。

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