スミダハイツ~隣人恋愛録~
刹那、榊は麻子の腕を引いて室内に押し込んだ。

榊は強引にドアを閉める。


麻子が驚いていたら、



「馬鹿」


ドアを背に押し付けられ、唇を奪われた。


何が起こったのかわからない。

榊の舌が、歯列を割り入ってきたところで、麻子はやっと抵抗の声を上げた。



「ちょっ、榊くん!」


肩で息をする。

榊は不貞腐れた子供みたいな顔をして、



「少しは思い出したかよ」


思い出すどころか、今のことを冷静に受け止めることすらできない。

榊がこんなことをするなんて思わなくて。


諦めたらしい榊は、舌打ち混じりに麻子から目を逸らし、



「昨日、麻子は酔っ払って俺に抱き付いてきた。そんで、俺のこと好きだって言った」


あれは夢ではなかったのか。

麻子は羞恥とパニックで顔を赤くする。



「なのに、キスした瞬間、こてっと寝落ちしやがって。それからはもう、どんなに揺すっても目を覚まさない。だから、仕方なくベッドまで運んでやったんだ」

「私、起きたら裸だった」

「知るか。俺はそれ以上、何もしてねぇ。いや、しようとしたけど、爆睡してるやつとヤルほど鬼畜にはなれなかったよ。服は、お前が夜、寝惚けて脱いだんじゃねぇのか」


麻子はへなへなとその場に崩れ落ちた。

一気に安堵感に襲われる。



「じゃあ、私たち、何もなかったの?」

「おい、待て。『何もなかった』はないだろ」


榊は憤然と拳を作った。
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