スミダハイツ~隣人恋愛録~
「誰のおかげだと思ってんだよ! 俺じゃなかったら、マジでヤラれてたぞ! なのにお前、人の気も知らないで、よくそうやって言えるよな!」


ガンッ、と、榊は壁を殴る。

麻子はびくりと肩を浮かせた。



「俺はな、ただの隣人と、酒を飲むためだけに仲よくしてたわけじゃねぇよ! 今まで、何で俺が女作らなかったのかとか、考えたことあんのかよ!」

「……え?」

「大事にしてたからだろ、お前のこと! ずっと自信なかったけど、それでも、今度のデカいショーが上手く行ったら、ちゃんと伝えようと思ってたんだ!」

「………」

「それなのに、お前は、人が我慢してたことも知らないで、酔っ払った勢いで好きとか簡単に言いやがるし、かと思えば、幸せそうに寝やがるし!」


榊の言ってることが、よくわからない。

麻子は茫然としたままで。



「榊くん、私のこと好きだったの?」


素っ頓狂に言ったら、榊は口元を引き攣らせた。



「この、鈍感馬鹿女! こんなに近くでいつも一緒にいるのに、どうして気付かないんだよ! 挙句、さんざん俺に恋愛相談ばっかしやがって!」

「だって、榊くんは仕事しか愛してない人だと思ってたから」

「それが鈍感馬鹿だって言うんだよ!」


発狂したように叫んだ榊は、なのに、いきなり顔を覆う。

そして大きなため息を吐き、



「俺だって今日は、お前のこと考えすぎて、仕事が手に付かなかったんだ。責任取れ」


言うや否や、榊は麻子を抱え上げた。

そのままベッドまで運ばれ、放り投げられる。



「きゃっ!」


と、か細い悲鳴を漏らした麻子の上に乗る榊。



「四の五の言ってても始まらねぇ。昨日の続き、するぞ」

「ちょっ」


噛みつくように、唇を塞がれた。

麻子は抵抗をやめて、榊に身を委ねる。
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