平穏な愛の落ち着く場所


『ごめんね、今日は日曜日なのに』

『あら、アタシがこのお姫様を
 独占出来るなんて夢のようよ!!
 本当にデパートとか連れて行っても
 いいのね?』

『迷惑じゃないなら』

『デパート!デパート!わーい!』

無邪気に喜ぶ娘に愛ちゃんは、
真剣な顔をする。

『さーや姫、今日はアタシがママよ、
 お外でもあーちゃん、じゃなくてママと
 呼びなさい、そしたら欲しいもの
 何でも買ってあげる』

『はい!あーちゃんママ!』

『愛ちゃん、あんまり甘やかさないでね』

『あんた、なに言ってんのよ!
 ジジババがいないこの子をアタシの他に
 誰が甘やかすの?!
 子供ってのはね、そういう存在が必要な
 生き物なのよ!アタシの楽しみを
 奪わないでくれる?』

『愛ちゃん……』

甘やかしてくれる存在……
その言葉がもつ温かさに千紗は涙ぐんだ。

『湿っぽいのはいいけどさ、
 ねえ?あんた本当に間に合うの?
 タクシー使わないんでしょ?』

『えっ?!嘘!やだ!!』

千紗は慌てて支度し、玄関でもう一度、
紗綾を思い切り抱き締めた。

『ママ、わすれものはない?』

『もう、紗綾ったら!大丈夫よ。
 じゃあ、行ってきます!』

『いってらっしゃい』

笑顔で手を振られて、
例え半日でも、離れて寂しいのは
自分の方なのだと、千紗は苦笑いしながら
駅へ急いだ。


< 5 / 172 >

この作品をシェア

pagetop