ベイビー&ベイビー
「拓海くん」
「爺さんの仕業?」
「はい」
そういって苦笑する松本。
まったく、こんなことで第一秘書を使うなっていうんだ。
松本にも思わず同情の目を向けてしまう。
あの爺さんの相手は本当に骨が折れることだろうから。
「先生はこちらのお嬢様が沢商事に勤めていることを知っていたご様子で」
「なるほど」
思わず苦笑した。
あの爺さんのちょっとしたいたずらだってことだ。
俺があんまり取り合わないから、すねてこんなことをしたのだろう。
年甲斐もなく、こんな子供のような仕返しをしてくるなんて。
全く、こまったご老人だ。
「じゃ、これは返しておくね」
「はい」
そういって先ほど明日香が持ってきた封筒を松本に返した。
すると松本が俺の耳元で囁いた。
「先生からの伝言です。たまにはこうやって心癒してくれる女性と食事でもして、ささくれ立った心を癒してもらえとのことです」
そういうと、松本は今度は違うチケットを俺によこしてきた。
「先生が贔屓にしている料亭です。予約はすでに取りましたので、そちらのお嬢様と是非に」
「え! 予約取ったの?」
「はい、先生からのご好意ですよ」
そういって有無を言わせませんよ、とばかりの松本の態度。
あの爺さんが爺さんなら秘書も秘書だ。
まあ、これぐらいのことサラリとやってのけなければ代議士の第一秘書なんて務まらないのだろうが。
こうして裏の顔もばれてしまった以上。
変に隠し立てなんかしないほうが賢明だろう。
俺は素直に松本さんに従うことにした。
「では、九重さんにお礼を言っておいてください。お忙しい身ですから、お声をかけるのも憚りますから」
「承知いたしました。では、楽しんできてくださいね」
「ありがとうございます」
そういって松本を見送り、すぐ傍にいたであろう真理子を探したが、すでに真理子はいなかった。
「子猫ちゃんと遊んだらどう?」
との言葉どおり、俺の今日の誘いは断られたらしい。
思わず、肩をすくめて目の前の日本人形に声をかけた。
「せっかくだし、これから食事どう?明日香ちゃん」