ベイビー&ベイビー




「…もしかして拓海君?」

「え!!」



 びっくりして後ろを振り返ると、そこには笹原明日香がポケッと驚いたように口を開いて突っ立っていた。
 しかし、いつもの明日香と雰囲気が全く違う。

 日本人形のような出で立ちの明日香。

 幼い顔立ちはそのままだが凛とした雰囲気。清楚な感じがいつもの明日香とは全くの別人だった。

 しかし、俺に話しかける声とのんびりした雰囲気は間違いなく明日香だ。


「どうして……明日香ちゃんが、ここに?」

「やっぱり拓海君だったんだね。いつもと雰囲気が違うから一瞬驚いちゃった」


 そういって笑うさまは、いつもの明日香だ。
 ほんわかとした雰囲気の明日香に、思わず毒気が抜かれた。


「こうしていると拓海くん。かっこいいね。いつもの優しげで可愛い拓海くんじゃないみたい」

「えっと……」


 そういってニコリと笑う明日香。
 一瞬、いつものように和んでしまうところだったが今のありえない状況に現実に引き戻された。


「なんで明日香ちゃんがここに?」

「九重のおじいちゃんに頼まれたの。ロビーにいるチタンフレームの眼鏡の男の人にこれを渡してくれって」


 そういって封筒を手渡された。
 なんだか嫌な予感がして、その封筒の中身を見てみる。

 やっぱり。
 その封筒の中身に俺は脱力してしまった。

 本当にあのくそ爺。
 俗世から早いとこ足を洗って、仙人のような生活でもしろ、と怒鳴りたくなった。

 封筒の中に入っていたのは、一枚のカード。
 カードといっても、このパーティー会場の上階にある一室のキーだ。

 本当に何を考えているんだ、あの爺さんは。
 俺はすぐさま封筒をジャケットの内ポケットに忍ばせた。


「ありがとう、明日香ちゃん」

「どういたしまして。でも拓海くん、なんでこのパーティーに?」

「それはこっちの台詞。明日香ちゃんは、どうしてここにいるの?」


 私? と特に隠し立てすることもなくサラリとすごいことを口にしだした。


「実家の父の代わり。本当は今日お父さんが来るはずだったんだけど、急用でこれなくなって。それで私がピンチヒッターなの」

「……実家のお父さんって……」

「茶道の家元でね」

「茶道?……京都の?」

「うわ、拓海くん。よく知ってるわね。そう、京都の表千家笹原流家元が私のお父さんよ?」


 まさか茶道笹原流の一人娘が、明日香とは。
 一人娘を東京の普通の商社に勤めさせているとは誰が想像しようか。

 なんだかいろいろ混乱している俺に、九重の側近であり秘書の松本が近づいてきた。
 その顔は何もかも知っていて、俺に同情するような感じの雰囲気。

 やっぱりあの一癖ある爺さんが仕組んだことらしい。
 俺は松本の顔を見て、すべてを悟った。





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