ベイビー&ベイビー
「明日香ちゃんのお父さんか。一度会ってみたいな」
「普通のおじさんだよ?」
「でも、茶道界のドンだって聞いたことがあるよ? 興味があるな。それも明日香ちゃんみたいな娘を持つ父親っていうのがポイントだよ」
「……それって褒めているの?馬鹿にしているの?」
茶碗蒸しを食べる手を止めて、俺をジロリと睨む明日香。
まったく、そんなしぐさでもなぜか和むのは、明日香が持つ雰囲気なんだろう。
俺はオーバーに首を振った。
「まさか。褒めているに決まっているじゃないか」
「……ますます怪しい」
ジトッと上目遣いで俺を睨みながら、茶碗蒸しを食べる明日香。
でも、一口入れた瞬間。
嬉しそうに目を細める辺り、本当に明日香は見ているだけで和む。
九重の爺さんが言ったことに思わず同調したくなった。
「ささくれ立った心を癒してもらえ」
確かに。
明日香にはそんな力があるように思う。
知らぬ間に俺は笑顔になっているのだから。
九重の爺さんが、そろそろポストに就いたらどうだといわれたとき。
今の会社が居心地がいいことに気がついた。
爺さんも驚いていたが、実は自分が一番驚いていた。
きっと、わずらわしい視線もなければ、周りの態度も川野拓海個人として扱ってくれる。
それに同じ課で同期の明日香、さやかがいるから居心地がいいのだろう。
出来れば、こうしてずっと。
楽しい時間を共有できるといいな、と思う自分がいることに正直驚いた。