ベイビー&ベイビー
「じゃあ、拓海くんに質問。いい?」
「ああ」
ついに聞かれるのか、と俺は少しだけ苦笑した。
こうしてあのパーティーでお互い出会ってしまった。
あのパーティーに沢商事という商社で働く普通のサラリーマンがいくことが出来る場所ではない。
「拓海くんって、どっちが本性なの?」
「へ?」
思わず冷酒を噴出しそうになってしまった。
今は明日香を目の前にしているので、チタンフレームの眼鏡をはずして、ムースで逆立てた髪もぐしゃぐしゃと解いて
いつもどおり、会社での川野拓海スタイルになっている。
明日香に聞かれるだろうことは、俺の家のことだと思った。
あの場所にいるのだ。
普通の家の人間ではないということは明日香にだって分かっていると思う。
しかし、明日香が聞いてきたのはもっと別のことだった。
「会社での拓海くん、そしてさっきまでの拓海くん。別人だった」
「……ああ」
「どっちも拓海くんなんだってわかってはいるんだけど。正反対だったから、びっくりしちゃって」
「うん、そうだろうね」