君にすべてを捧げよう
「いや、もっと早くからハイネと色々話しておけばよかったのになー、と思って」

「え?」

「ハイネってさー、もっとキツい性格かと思ってたんだよね、俺」

「は、はあ?」


意味が分からずに問い返す。
と、鏑木さんがそれ! と声を上げてあたしの顔を指差した。


「それだよ、それ。何言ってんの? って言いたげなその不機嫌そうな顔。綺麗な分迫力があってさー。それが怖くて、声かけるの躊躇ってたんだ、俺」

「ええ、ひどい! あたし性格キツくないですっ。この顔は生まれつきだし、別に不機嫌でもありません!」


思わず顔に両手を添えた。

キツそうな顔立ちだと言われた経験がないわけでもない。
地味な青春を送ったというのに、元ヤンですよね、と確信めいて言われたこともある。
自分の顔つきがかわいいと表現されるものじゃないことは、承知しているつもりだ。

でも、だからといって年上の男の人にまで怖いと思われるほどだとは思わなかった。


「みたいだねー。だから、もっと早く声かけたらよかったって後悔してんの」


愕然としたあたしを見て、あははと悪びれず笑って、鏑木さんは続けた。


「さっきの話もそうだけど、ハイネって結構天然バカだよね。性格も穏やかだし」

「天然バカって……。バカっていらなくないですか」

「深夜のコンビニでゴミ袋追いかけてるって、バカでしょ」

「う……まあ」


返す言葉もありません。


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