君にすべてを捧げよう
でも酷い言われようだと思う。

もっと優しい言い回しで言ってくださいよ、とぼやきながら酢昆布を取り出して口に放った。
それを見て再び笑いだす鏑木さん。


「また昆布食べてるし」

「い、いいじゃないですか、別に! 昆布は髪にもいいっていうし!」

「そうかもしれないけどさー。あ、でも髪綺麗だよね、ハイネ」


タバコを持っていない方の手が、髪に触れた。
少し明るめの栗色に染めている髪は、背中の中ほどまでの長さだ。
いつもは一つに纏めているのだけれど、今日はそのまま背中に流していた。

その髪質をみるように、鏑木さんは一束とって指腹で撫でた。


「ストパーかけてない、よね?」

「はい。元々ストレートなんです」

「へえ、いいね。俺は癖があるからさー、湿気の多い日はセットが大変なんだよね」


鏑木さんのミルクキャラメル色のウェーブがかった髪は、いつも柔らかく整っている。
苦労してセットしてたりするんだー、といつも適当に纏めているだけの自分をこっそり恥じた。
職業柄、手抜きをしてはいけないのに。
と、触れていた指先が毛先まで流れた。


「お。枝毛もないねー。シャンプーは何使ってるの?」

「店で使ってるのとおんなじですよ。あれが一番合ってるみたいで」

「え、ほんと?」


言うなり、鏑木さんはあたしの頭に顔を近づけた。
すんすん、と匂いを嗅ぐ気配をつむじ辺りに感じた。


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