君にすべてを捧げよう
「ハイネと俺の付き合いってさー、どれくらいだっけ?」

「は?」


急に話題を変えられて、きょとんとした。
それから、ええと、と指を折って数える。


「二、いや三年ですね。鏑木さんは裕子さんと入れ替わりで入ってきたんですよね、確か」


裕子さんとは元々従業員の一人だったのだが、オーナーと結婚。妊娠したのを機に店を辞めた。
そして、本店でサブチーフとして勤めていた裕子さんの代わりを、とオーナーが知り合いの店からスカウトしてきたのが鏑木さんだった。
オーナーが見込んだだけあって、鏑木さんは入店後すぐにサブチーフになったんだっけ。

そのときの子ども、由真(ゆうま)くんがもうすぐ三歳になると言う話を最近聞いたばかりだ。


「そっか。三年か。長いよね、けっこう」

「そうですね。でも、そんなに接点なかったですよねー」


あたしの勤めているこの店は二号店で、本店からは車で一時間半ほどかかる場所にある。
離れていることもあって本店との関わりは普段は殆ど無く、本店スタッフとは月に一度本店で行われる合同練習会でしか顔を合わせないのだ。

なので、本店スタッフだった鏑木さんとは会っても挨拶を交わした程度で、満足に話したことが無かった。


「俺がこっちに移動しなかったら、接点ないままだったんだろうなー」

「そうかもしれませんね、って急にそんな話してどうしたんですか?」


鏑木さんは先月、本店からこの二号店に移動してきた。
というのも、この店の責任者兼チーフだった椋田(むくた)さんが本店のチーフに昇格し、その空いたポストに鏑木さんが収まることになったのだ。
ちなみにあたしはサブチーフだったりする。
多分、勤続五年という長さに起因しているのだと思う。
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