君にすべてを捧げよう
ここに来るまでに、色んなことを考えた。

女好きで、たくさんの女性と遊んできた蓮からしてみれば、ハトコのあたしだって、その他大勢の女の一人なのかもしれない。
あれだけ縋ってしまったのだ、同情で抱いてくれたのかもしれない。
こんな風にマンションまでやって来て、面倒だと思うかもしれない。

マイナス面の想像だけば、ばっちりだ。
大丈夫、こんな場所でみっともなく泣くことだけは、しない。


『あの、あのね、蓮』


蓮の言葉を待たずに口を開く。
しかし、何と切り出していいのか分からない。

――あたしをどうして抱いたの?――

ダイレクトに言う勇気もない。


ジイジイと蝉がけたたましく鳴いている。
頬には汗が伝い、顎先から地面へとぽたりと落ちた。


『あの、あのね。あたし、蓮が好』

『すまん、めぐるをそういう目ではみられない』


はっきりと、蓮はそう言った。


『れ、蓮……』

『仕事あるんで、もう帰ってくれるか? じゃあ、気を付けて』


呆然としたあたしの前で、無情にもドアは閉じられた。
残されたあたしの耳に、蝉の声だけがグワングワンと響いていた。


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