君にすべてを捧げよう
「こらこら、逃げないの」


手首を掴まれて、引かれた。
引き込まれたあたしは、鏑木さんにぎゅうっと抱きしめられた。


「な、なにするんですか!?」

「何って、なぐさめてるー」


優しく頭を撫でられた。


「よーしよーし。大丈夫だよー」

「別に慰めてもらうようなことないですから!」

「はいはい。わかりましたよー」


もがいても、鏑木さんは離してくれない。
あたしを抱きしめたまま、何度も頭を撫でた。

その手つきは、蓮が与えてくれるものより、柔らかくて穏やかだった。
一瞬、乱暴な感触を思い出したが、慌てて打ち消した。


「とにかくやめて下さいってば!」

「やだ。やめないよー」

「酔っぱらってますよね!?」

「うーん、酔ってはいるけど、でもふざけてるわけじゃないよ?」

「ふざけ……」


『ふざけただけだ』


ついさっき、そう言った男の顔が思い浮かんだ。
今度は、簡単に消えてくれそうにない。


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