君にすべてを捧げよう
「え、ちょっと鏑木さん!?」

「あ、確かに」


なんだか近くない!?
急に近付かれたことに驚くあたしに気付かないまま、鏑木さんは体を離した。


「あれ、俺は手荒れ起こしてダメだったんだけど、やっぱいいんだねー。赤川さんが薦めてるだけあるんだね」

「あ……、はあ、まあ」


懇意にしている卸業者さんを誉めてから、髪から手を離す。
そしてあたしの顔をひょいと覗きこんだ。


「あ、ほら。こういう表情、今まで見たことなかったんだよね。こういう一面をもっと早くに知りたかったんだよ、俺はー」

「へ!? ど、どんな顔してますか、今のあたし」

「んーと、真っ赤になってかわいいね」

「な!?」


無自覚だった赤面を知った瞬間、顔に血液が集中するのを感じた。


「なに言ってるんですか!! 急に!!」

「あ。照れた? あはは、からかい甲斐があるね、ハイネは」


愉快そうにタバコをくゆらす鏑木さんを、何とも言い返せずに睨んだのだが、全く意味がなかった。


「そんな顔してももう怖くないよ? ハイネがかわいいって分かったし」

「ちょ! そういうこといわないでください!」

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