君にすべてを捧げよう
あたしと同い年だというのに、つぐみは主婦歴8年。
雰囲気も落ち着いて、しっかりしている。


「いいなー……」

「ん? なにが?」


思わず呟けば、つぐみが問い返す。
ケーキをもぐもぐと食べながら、ぽつんと話した。


「いや、いいなあって思うのよ。旦那さんと子供の為にいろいろ工夫して頑張ってるのって、かっこいいっていうか、正直ちょっとうらやましくなった。あたし、何やってるんだろう」

「何言ってるのよー。めぐるのほうがよっぽどかっこいいじゃない! これもそうだしさ」


つぐみが指し示したのは、今月発行の地域のフリーペーパーだった。
その中の『人気美容師特集』と言うコーナーに、あたしが取り上げられたのだ。
数週間前に取材を受けたのだけれど、写真は撮られるし、インタビューはされるし、気恥ずかしくて知り合いの誰にも言っていなかった。
のだけれど、さすが友というべきか、それにいち早く気づき、「お祝いよー」と言って、ケーキを持参してやって来たのだった。


「すごくなんかないよ。地方のちっちゃいコーナーだもん」

「そういう言い方しないの。すごいことだよ。私、これ保存しておくつもりだよ」

「ちょっと、恥ずかしいからやめてよー」

「だって、本当にすごいと思うの。私にはできないことだから」


つぐみはフリーペーパーを大切そうにバッグに入れて、言った。


「私って、会社務めも、高校よりも上の学校も知らないでしょう?
たまに思うの、人生の可能性について。私には、他にどんな人生があったのかな。バリバリ仕事して、自分を磨くような道もあったのかな、って。
だから、めぐるの活躍がすごく嬉しい。私が歩めなかった道を進んでるんだなって」


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