君にすべてを捧げよう
「あはは、真っ赤」


半分ほど吸ったタバコを灰皿に押し付けて、鏑木さんは大きく伸びをした。


「さ、て。ハイネもからかったし、中に戻ろうかな」

「からかうって、もう! あ、あたしもそろそろ戻ります」


立ち上がったところで、ドアから馬渡くんが顔を出した。


「予約されてた市川様がお見えでーす! 一回流しますか?」

「あ。俺のお客様か。うん、お願い!」

「了解です!」


言うなり、馬渡くんは顔を引っ込めた。
と、鏑木さんがやば、と呟いた。


「市川様ってタバコNGなんだった。歯磨きしていこ」

「それなら今度からタバコの代わりに酢昆布にしたらどうですか?」


意地悪く言ってみると、ぽんと頭を撫でられた。


「タバコが1箱1000円くらいになったら考えるよ。じゃあ、俺行くわ」

「あ、はい」


ばたばたと駈けて戻る背中を見送った。



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