君にすべてを捧げよう
「――え!? 店辞めるの!?」


もう一つの重大な告白を智の口から聞いたのは、狭いベッドで汗ばんだ躰をくっつけていた時だった。
心地よい気だるさにうとうとしかけていたあたしは、その言葉で目が覚めた。


「うん。何ヶ月か前からそういう話はしてたんだけど、今日オーナーに正式に伝えた。今月末で、退職」

「な、なんで……?」

「一つは、めぐるとのことを隠したくないからなんだけどね。もういい加減、誰にも言えない関係っていうのが、苦痛」

「え、いやそれは公表すればいいじゃない!」

「えー、恥ずかしいとか、公私混同したくないとかあれだけ言ってたのに?」

「う……」

「それと、もう一つ。まあこっちがメインというか、俺の実家が美容室やってるって、言ったよね?」

「う、うん」


御両親が二人で経営していると言う話は知っている。


「オヤジがさ、三か月ほど前に脳梗塞やっちゃって、鋏持てなくなったんだ」

「え……」

「リハビリとかやってたけど、以前のような仕事は二度と望めないだろうって。それでさ、お袋一人じゃ続けていけそうにないし、いっそ店を閉めようか、って話になったんだ。

二人とももう年だし、近くにはバリバリ働いてる兄貴夫婦がいて、もう無理して働かなくていい、ってそれを後押ししたんだよね」


そう言えば、智は最近実家に帰ることが多かった。
親の機嫌取ってくるねー、とか明るく言っていたし、別段気にしてもいなかったけど、そういうことだったのか。


< 187 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop