君にすべてを捧げよう
「おこった? めぐる」

「怒ったに決まってるでしょ? あたしまで急に辞めちゃったらお店どうなるのよ!?」

「え?」

「技術者が二人も抜けたら大変じゃない。馬渡くんはやっとキッズに入れるようになったところだし、千佳ちゃんは薬剤塗布までしかできないし。
本店から人を回してもらうって言っても二人は難しいもん、求人かけてもらわなくちゃ」

「め、めぐる?」

「あ、でもオーナーのことだからもう智の抜けた穴は補充する算段はしてるかな。
やだ、あたしも早く言わなくちゃいけないよね。あと、顧客の人たちに連絡しないと」

「めぐる? あの」

「智!」

「はい!」

「あたし、ついてく。オープニングからいる。結婚するってそういうことでしょう?」


大変なことも、苦しいことも、支え合えるからこそ、結婚の意味があるんだと思う。
自分の生活だけ守って、パートナーには新しい世界で苦労してもらうなんて、そんなのは間違ってると思う。


「店のこととか、ちょっとくらい相談してほしかったけど、家族の問題もあるだろうし、責めない。
でも、あたしを置いてくとか、待ってろとか、そういうのまで決めるのはやめて」


はっきりそう言えば、智は妙な表情を浮かべた。
笑い出すような、泣き出すような、それらが入り混じったような、変な表情。


「分かってる? あたし、怒って……ん……」


文句は、智の唇で止められた。
いつもより急いたように舌を求められる。


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