君にすべてを捧げよう
どうして、そんなに傷ついた顔をしてるの?
どうして、そんなに悲しそうな顔してるの?
今までそんな顔、みせたことないじゃない。

あたしばかりを傷つけておいて、そんな顔するのは、卑怯だよ。


「……あたし、来月にはここから出てく。多分もう、帰って来ない」


蓮は何も言わない。
あたしは独り言のように言葉を重ねた。


「この家は蓮が好きにすればいい。蓮だったら、両親だって喜んで貸す。
離れだけじゃなく、こっちも好きにして暮らせばいいわ。
一人で集中して書けるでしょう?」


身の回りの世話が欲しければ家政婦を雇えばいい。
坂城蓮の名前で作品を書こうとすれば、瑞穂さんだって世話をしてくれる。
あの離れで、書き続ければいい。


「わかった」


果たして、蓮が声を発した。


「わかった、めぐる。結婚、おめでとう」

「れ……」

「今まで迷惑かけた。けど、もうここには来ないから安心しろ。鍵は、明日ポストに返しておく」

「え……、なんで?」


あたしがいなくなっても、蓮はあそこを使えばいい。
蓮があの離れにジンクスを持っていることは皆が知ってることだ。
あそこでなければ仕事が終わらないと、分かっている。
息子とも思っている蓮が必要としているならば、両親も喜んであそこを提供し続けることだろう。


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