君にすべてを捧げよう
「いていいんだよ? あそこじゃないとダメなんでしょう?
離れじゃないと書けないってあんなに言ってたじゃない」


焦りから早口で問えば、蓮が苛立ったように言った。


「母屋に誰もいないんじゃ、意味ないんだよ」

「……は?」

「めぐるがいるから、書けたんだ」


足の力が、抜けた。
今、蓮は、何て?

へたり込んだあたしを見下ろして、蓮は続けた。


「お前の気配がないと、ここにいても俺は書けない」

「なに、言ってんの……? だって、ジンクス……」


蓮があそこに籠もるようになったのは、賞を獲れるほどの作品が書けたからだ。
あの時の蓮には美恵さんがいて、あたしなんか眼中になくて、蓮に何の影響ももたらしていない。

なのに、蓮はゆっくりと首を横に振った。


「お前なんだ。でも、もういい」


くるりと、蓮が背を向けた。


「ありがとな、めぐる」


立ち上がることも、声をかけることもできないまま、離れに消えていく蓮を見つめた。


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