君にすべてを捧げよう
あたしの両親は、マレーシアはペナン島の空の下にいる。
海外赴任でかの地をいたく気に入った父が、母を呼び寄せたのだ。
母も同じくお気に召したようで、二人して定年後も住みたいと言っている。

お陰で日本にほとんど帰ってこず、用があったらお前が来いと言うほどになってしまった。
あげく旅費を出してくれないので、実費でだ。
一人娘の扱いにしては、酷すぎではないだろうか。


そんなあたしのげんなりした様子には気づかず、鏑木さんは続けた。


「そっかー。なんなら、送り迎えしようか、俺」

「へ!? い、いやそこまでしてもらわなくて大丈夫ですよ」


慌てて首を振った。


「そう? どうせ数日間のことだろうし、俺は構わないけど」

「お気持ちだけ頂きますね。だいたい、そんなことしてたら彼女さんに悪いです」

「ああ、先週の頭に別れたから、今はいないんだ。だから大丈夫だよ」

「へ、いない? 珍しいですね」


あ。思わず言ってしまった。


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