君にすべてを捧げよう

*あとがきにかえて

少女には、モデルがいます。

幼い頃、寝物語をせがんできた、小さな女の子です。
怖がりで、眠りの糸を掴むのがへたくそだった彼女は、布団に入ることをいつも恐れていました。

そんな時、ふと思い立った僕は、面白おかしく創作した昔語りを彼女に聞かせたのです。
最初は、起承転結もなく、一貫性もない無茶苦茶な話でした。しかし、彼女は楽しそうに笑うのです。
涙が溜まった瞳を半月に変えて、ころころと笑い、そして笑い疲れて眠りました。その寝顔は、とても楽しそうだった。

人を笑わせる。幸福感に満たして眠らせる。
自分にそんなことができたということが、驚きでした。
もっと驚くことに、彼女はそれから夜が来るたびに、僕の話をせがむようになったのです。
同じ話を続ければ、幼いのにあらすじを覚えるようになり、新しい話をねだられました。
そうして、新しい話を作れば、手を叩いて喜ぶ。
喜びながら、拙い世界に没頭しながら、するりと眠りの世界に落ちていくのです。


僕の創作の原点は、彼女です。


彼女を喜ばせたくて、笑わせたくて、もっと聞きたいとせがんで欲しくて、その一心で創作を始めました。
創作の基礎を学び、応用を覚え、少しでも面白いものを作って彼女に聞かせようとしました。
その経験が、今の僕の土台です。

誰かを喜ばせたい。
僕は一度、そのことを忘れ去ってしまい、自分の力を過信します。
その時、話の中の男と同じように、大切な人を失い、大きな挫折を知りました。
自暴自棄になった僕を救ってくれたのは、あの女の子です。
原点を思い出させてくれ、僕を再び社会に戻してくれたのです。


どれだけ感謝しても、足りません。


彼女が読んでくれるから、笑ってくれるから、僕は創作が出来る。
原点である彼女は、帰点でもあるのです。

男の歌が巡り巡って少女に届くように、願わくば、僕の作品も彼女に届きますように。


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