君にすべてを捧げよう
――その次は、尊敬する同業者、かな。


鏑木さんは顔立ちのみで顧客を獲得しているわけではないと、それからしばらくして知った。
腕がものすごかったのだ。



鏑木さんが入ってしばらくしてのことだった。本店スタッフ内で風邪が流行って、人手が足りなくなったことがあった。
そのヘルプとして呼ばれ、本店で一日働いたあたしは、鏑木さんの仕事ぶりをみて驚いた。


お客様に気負わせないような、適度な距離感のある会話。
そこからお客様の持つ完成イメージをきちんと理解し、それを限りなく近い形で具現化し、満足して帰っていただく。
髪質や癖をきちんと把握した上での施術は、お客様が家でスタイリングしてもきちんと決まると好評だった。


すごい、こんな人が近くにいたなんて。
あたしの理想とする仕事ぶりだ、と鳥肌がたった。


それは、同じ職場になった今では毎日のように感じていることだ。

理想像は崩れるどころか、不動の位置をキープし続けている。
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