君にすべてを捧げよう
「あ、そこを右だっけ?」

「はい。左手にスーパーが見えてくるんで、その手前を左に入ったらすぐです」

「あそこ? はーい」


家の前で車を停めた鏑木さんは、興味深そうに門扉の奥を窺った。


「でかいねー、ハイネの家」

「ああ、無駄にでかいんですよね」


小金持ちだったという曽祖父が建てた我が家は、純日本家屋である。
小さな池を中心とした庭園に、元は茶室だったという離れまであるのだが、
どこもかしこも老朽化してるし、手入れは面倒だし、掃除はエンドレスだし、非常に不便な家なのだ。

休日は草むしりで終了、なんてこともままある。


「こんなに広い家で一人って、怖くない?」

「防犯ですか? 一応セ●ムしてるし、大丈夫だと思いますよ。それに、うちお金ないですから、狙われないと思います」

「……あ、そう」


そういう意味だけじゃないんだけどな、と笑ったあと、鏑木さんはあれ? と呟いた。


「家、電気ついてるね。一人暮らしなのに、なんで?」



「へ!?」


見れば確かに、室内に灯りがついていた。玄関の外灯までも点いている。
出勤前に消えてるのは確認したはずなのに、なんで?


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