君にすべてを捧げよう
一瞬ぞわりと不安が襲った。のだったが、すぐに思い当たったのは、ある人物だった。

もしかして、来た?

いつもふらりとやって来る人。そうだ、きっとそう。


「ハイネ? 玄関までついて行こうか?」

「あ、いえ! 大丈夫です、多分親戚です!」

「親戚?」

「はい、合鍵持ってる人なんで」


既に確信に変わったので、強く頷くと、鏑木さんは安心したように頷いた。


「それなら、いいや。じゃあ、お疲れ様。ハイネ」

「今日はありがとうございました! お疲れ様でした」


鏑木さんの車が曲がり角に消えるまで見送ってから、慌てて玄関に向かった。
カギがかかってない引き戸を開けようとして、は、と気付く。


「お、と。外さないと」


クリスタルのネックレスを外し、バッグにしまってから、扉を叩きつけるように開けた。


「蓮!!」


大きく呼ぶと、リビングの扉がガタリと開き、くたびれた顔をした男がひょっこり顔を覗かせた。


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