君にすべてを捧げよう
いります? とポケットに入れていた酢昆布の箱を差し出すと、鏑木さんはますます面白そうに笑い出した。


「い、いやいらない。けど、どうしてまた昆布……」

「おかしいですか? カロリーないし、けっこう美味しいですよ」


笑いのツボに入ったらしい鏑木さんを、首を傾げて見た。
なかなかいいかも、とか思ってるんだけど。


「や、おかしくはないんだけど、でもおかしいっていうか。あ、ちょっとごめんね」


あたしの後ろにおいてあった灰皿に手を伸ばす。
近づいてきた胸元にぽすんと顔がぶつかった。


「わ」

「あ、ごめんごめん」


慌てて体を離す鏑木さん。
その拍子にふわりと柑橘系の香りがした。


「いえ、大丈夫です。ってか鏑木さん、いい香りですねー」

「そう? ありがと。ハイネも酢昆布のいい匂いがしたよ」

「マジすか。出汁でてるんですかね」

「酸っぱそうな出汁だけどね」

「つーか、臭いってことですか!」


くすりと笑って紫煙をゆっくり吐き出す鏑木さんに、頬を膨らませた。


< 8 / 262 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop