君からはもう逃げられないっ!!


その空から降ってくる人は、壁を蹴って体を回転させ、

とたんと、地面に着地する。




その人が上半身を起こした瞬間、
横顔でも分かるくらいはっきりとした美しさに、周囲の空間までも、白く染め上げていく。

時が止まったように不覚にも目を奪われた。

頭の中から余計なものが失われ、果てしなく続く真っ白な世界だけが心の中に残っている。

周りの景色は見えなくて、呼吸が苦しくて、自分がどこにいるのかも、ついさっきの告白すら、このときわたしは忘れていた。

四季すら狂わせるほどに一面の雪原に桜が舞い散っている中に一人の少年が立っている。


そんなありえない錯覚の虜にされていた。


「サクラ……」
思わず呟いたわたしに、その人はこっちを振り向き、

「何?」

芯のある、それでいて遠く透き通るような――やっぱり綺麗な声。

それがこの人が発したものなのだと気づくのに数秒もかからなかった。

「え……」

「名前」

そう言って、わたしの方に静かに歩き出す。

花で言えば、ソメイヨシノ。


芯のある強い存在感を放ちながらも、どこか危うさが常に漂う絶滅危惧種。

儚くただ静かに消えていってしまう寂しく不安な気持ちにさせられる。


この人はわたしの近づいてきた。

数M離れてるかどうかっていうくらいの距離まで。


近くで見ると、ますますその綺麗さが際立つ。

< 7 / 16 >

この作品をシェア

pagetop