瞬きさえも忘れていた。
そんなのもちろん聞きたくないから、だんまりを決め込んで、息まで潜めてじっとしたまま、ただ、耳障りな音を立てるドアを見詰めていた。



やがて、ようやくノック音が止んだと思ったら、今度は縋りつくような弱々しい声で岩本さんは言う。


「ねぇ梨乃さん、開けてください。このままだと俺――

不審者じゃん」



迂闊にも吹き出してしまった。

間違いない、と。



女子更衣室のドアを、「開けろ」と連呼しながら躍起になってノックする男。関係ない人から見たら、紛うことなき不審者だ。



「開いてます」

仕方がないから教えてあげれば、カチッと小さな音を鳴らし、ゆっくりと扉が開く。


ほんの少しだけ開かれた扉。その隙間から身体を滑り込ませて来た岩本さんは、

「開いてたんだ」

照れ臭そうに笑って、後ろ手に扉を閉めた。



壁に片手を突いて支え、靴を脱ごうとしている彼に、

「ここは男子立ち入り禁止です」

と、素っ気なく咎めれば、

「アウトローの俺にはそんなの関係ない」

悪びれることなく言って、ニッといつもの笑みを一瞬だけ見せた。


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