あの空の音を、君に。
「ね、俺のこと伊月って呼んでよ。すーずっ」
もう一度、ニヤッと笑う彼の右頬からエクボが誕生。
この人、何にも私のことわかってない。
――当たり前か、昨日会ったばっかりだもんね。
私は深く深呼吸した。
空に1番近いこの場所で、たくさんの空気を体にためた。
「いーつーきー! 伊月でいいんでしょーっ!」
屋上に、私の声が響き渡った。
耳がいい人は、グラウンドや校舎内にいても聞こえているんじゃないかってくらいの大きい声だった。
当然、いきなり隣から大声がきこえてきた伊月はびっくりしている。
でも、私だって伊月に負けないくらいびっくりしていた。
久しぶりだった。こんなに大きい声を出したのは。
今まで、叫びたいときもあった。強いて言えば、泣き叫びたいことばっかりだった。
でも、そんなこと、私には無理だった。