溺愛MOON
けどやっぱそれはマズイよね。


「いや、いいです。ごめんなさい」

「遠慮しなくていいよー」


暑いよねえ、とハンカチで汗を拭きながら話しかけてくる彼からは、最初見た時とは全然違う人懐っこさが滲み出ていた。


「イチゴでいい?」

「いえ、私、本当に」

「ちょっと待っててね」


最初、物欲しげな顔をしてしまった手前、いりませんと強く言えずに困っていると、遠慮だと取った彼はニコリと微笑んでカキ氷を買いに行ってしまった。

思わず後ろのデスクを振り返る。


中条さんは今日も居ない。

……誰も居ない。


これからしばらくは船も来なくてお客さんはほとんど来なくなる。


……買ってきてくれるって言ってるし、食べちゃおうかな、カキ氷。


一度、悪魔の囁きが頭に浮かぶと、どうしても食べたくなって、いつの間にかチラチラと彼が戻ってくる方向に視線が行っていた。

東京にいた頃は知らない男性から食べ物を貰うなんて、あり得ない感覚だったけど、島に馴染んじゃったなぁと思う。

そんな自分に苦笑した。
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