溺愛MOON
慌てふためく私達二人に対し、かぐやだけは冷静で、不機嫌な表情のまま稲垣さんに向けて高圧的に言い放った。


「こいつは駄目」

「え?」

「俺のだから」

「えっ、あっ。す、すみませんでした……! いやっ、僕そういうつもりじゃなくてですね……」

「行くよ、香月」


可哀相なくらいに慌てて言い訳をし始める稲垣さんに見向きもしないで、話の途中であるにも関わらず強引に私をホテルの外へと連れ出した。


今までに見たことがないくらいに強引なかぐやに面食らったのと、

かぐやと稲垣さんが知り合いだったことに驚いたのとで。


かぐやが私を自分の物だと主張したことに嬉しいと感じる気持ちは、その場ではついて来なかった。


ただ現実世界の境界線がすごい勢いで近づいて来ることを感じて、怖い、と思った。


かぐやは私の手を掴んだまま、黙って通りを私達の長屋へと歩いていた。

そこは島のメインロードとも呼べる人通りの多い道で、私はこんな場所をかぐやと二人で歩いていることが何だか不思議な気持ちだった。
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