溺愛MOON
かぐやの声が聞きたい、そんなことをぼんやりと考えていた。
低くも高くもない、あの心地良い……。
「香月」
「え?」
聞きたいと思っていた声で名前を呼ばれて我に返った。
幻聴かと思ってキョロキョロすると、後ろからぐいと腕を引かれて立ち上がらされた。
「帰るよ」
「えっ、かぐ……っ」
立ち上がるとかぐやがムスッとした顔で立っていた。
かぐやの名前を最後まで呼ばなかったのは、彼が人差し指を口の前に当てていたから。
まるで名前を呼ぶなとでも言うように。
かぐやなんて他人に聞かれたらおかしな呼び名だからかと思ったけれど、次の瞬間、そうじゃないと分かった。
「えっ、あの、どうして……っ」
稲垣さんが慌てて立ち上がったから。
その様子から二人が知り合いであることは見てとれたし、あのジェスチャーは私じゃなくて稲垣さんに向けたものに違いないこともすぐに分かった。
低くも高くもない、あの心地良い……。
「香月」
「え?」
聞きたいと思っていた声で名前を呼ばれて我に返った。
幻聴かと思ってキョロキョロすると、後ろからぐいと腕を引かれて立ち上がらされた。
「帰るよ」
「えっ、かぐ……っ」
立ち上がるとかぐやがムスッとした顔で立っていた。
かぐやの名前を最後まで呼ばなかったのは、彼が人差し指を口の前に当てていたから。
まるで名前を呼ぶなとでも言うように。
かぐやなんて他人に聞かれたらおかしな呼び名だからかと思ったけれど、次の瞬間、そうじゃないと分かった。
「えっ、あの、どうして……っ」
稲垣さんが慌てて立ち上がったから。
その様子から二人が知り合いであることは見てとれたし、あのジェスチャーは私じゃなくて稲垣さんに向けたものに違いないこともすぐに分かった。