溺愛MOON
「王子様……、なんていないよね」


また毒を吐かれる前に自分で否定した。


「分かってる。分かってるけどさ……。そう思わないと自分を保てない時って……、かぐやにはない?」

「……かぐやって何」

「名前だよ、あなたの。名前教えてくれないんだもん」


勝手にかぐやと名付けた私を、彼は物珍しそうにじっと見つめてきた。

そんなに遠慮なく見つめられると、ドキドキしてしまう。


私は慌てて口早に次の質問を繰り出した。


「ね、かぐやはあの日なんで海で泳いでたの?」

「……海が光ってたから」

「うん。あれ夜光虫なんだってね。すごい綺麗だった! かぐやがまるで光を纏って泳いでるみたいで……すごく、幻想的だったよ」


しゃべり続けてないと彼が消えてしまう気がして。

夢中で身を乗り出すようにして話し続けた。

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