ソラナミダ

途中でタクシーを拾い、マンション前に辿り着いた私は……


エレベーターまで、全力疾走で走った。






「…………。」




エレベーターの中にて、ひと息……。






………。
一体……どんな人がいるっていうんだろう。



鷲尾さんに会わせてはいけない人……？




それって、もしかして……


晴海くんの……




彼女……とか？




エレベーターを降りて。



私は……早足で部屋の前まで急ぐ。




しばらくすると……



ちょうど、晴海くんの部屋の前。



ぶつかりの壁にもたれかかって……



しゃがみ込む人物が……



見えてきた。







私は一度……帰るフリして。
自分の部屋の鍵を開ける。




それから鞄をぽいっと中に投げ入れて。

ヒールをサンダルに履きかえると……



再び、玄関の外に出た。



その音に反応したのか…、



その人物が、顔を上げる。





透き通った大きな瞳からは……、涙が溢れ、


私の姿が揺らいで映っていた。







「……………。」



あれ……、このひと……どっかで……？



一方の相手も……穴があいてしまうんじゃないかってくらいに……



私を見つめていた。





「………平瀬…さん？」



「………！！」




名前を呼ばれて……
初めて気づく。



まるで人形のように綺麗な、この人は……。



「……いちか……さん？」



菱沼……いちか。





なぜ……彼女がここに？




いや、いまはそんなことはどうでもいい。




ただでさえ目立つのに…


こんな所に、ずっと一人で……？





「……なんで…平瀬さんがここに？」



今私が。
一番聞きたいその質問を……


菱沼いちかがたずぬてくる。




「………私は、このマンションのここの部屋に住んでるから……。」




「……え？」



彼女は……
目を見開いた。




………晴海くん、彼女にその話は…してないんだ。



「…いちかさんこそ、こんな所で何をしてるんですか？」



なら……



私も知らないフリした方が…賢明だろう。