ソラナミダ

「私は……ここで人を待ってるんです。」




「…………。」




やっぱり……、
晴海くんが説得して欲しい相手は……いちかさんなんだ。



鷲尾さんには……、確かに言えないよね。




「……ここの部屋の人……ですか？」



「……ハイ。…あの、平瀬さんはここに住んでる人……」



「……知らないです。あんまりいないみたいですよね。」






こんな嘘ついて……


この状況で…



どうやって説得しよう。




「……帰って来ないんじゃないですか？だって、この時間に居る気配ないですよ、いつも…。」



「…来るまで…待ちます。」




「…相手に連絡すればいいんじゃあ？」



「……それは……できません。」



「……なぜ？」



「……彼は私を…拒否するから。」



「…………。」




連絡とれないって晴海くんは言っていた。






彼女は目深に被ったニット帽を……


震える手で握りしめた。





「…………。」



この帽子……


見たことがある。


ああ…、そうだ。



晴海くんが被っていたものだ。




「……その人は、いちかさんの恋人…ですか？」



「……わかりません。」




『わからない』なんて関係が…あるの？




「……彼は私を大事にしてくれます。けど……、わからないんです。」




「……………。」




晴海くんは、恋人がいるって言っていた…。


それは……、


いちかさん。


あなたじゃ…ないの？







「……いちかさん、こんな所にいちゃ…駄目ですよ。仮に彼が帰ってきたとしても…驚くはずです。だから…帰れとは言いません。でも……、そんなに切羽詰まった顔をした人を…私も放っておけないです。いちかさんがかまわないのなら……、ウチで待ちませんか？」



「……え……？」



「その『彼』と、きちんと話すべきです。帰って来たら…行けばいいという話ですよ。」



「…でも……」



「女ひとりの生活じゃ寂しくって。こんな私で良ければ……話聞かせてください。いくらでも話し相手になりますよ？ガールズトークして、ちょっとスッキリしませんか？」



「………こんな広いお家に…ひとりで？」