レベル・ラヴ
 急いで来たのか、少しだけ呼吸を弾ませたエレーナがこちらへ向かってくる。

「お待たせしました!」
「わざわざすまない・・・」

 出てきたエレーナは見慣れた地味なメイド姿ではなく、ごく普通のワンピース姿だった。
 かわいらしい花柄はエレーナによく似合っている。
 その右手には何か箱らしいものを持っていた。

「・・・エレーナ、それは?」
「え?」

 持っているものを指摘すれば、彼女はオレに向かってその箱を持ち上げる。

「ああ、お怪我をされているようでしたので、応急手当てさせていただこうと思って持ってきました」
「…そうか」

 傷口を洗っていたところを見られていたのだろう。
 手当てしようと救急箱を持ってきてくれたのだ。

 これから酷いことをしようとしている自分には彼女のそういった心使いが心にしみた。

 エレーナが手馴れた様子で手当てをしているところをゆっくりと観察する。
 小さな手がオレに触れる。

 彼女とたった2人だけの時間。
 こんなふうに会話すらしたことはない。

 立場上、気軽に話しかけられることも出来ず、ただ一方的に見つめるだけの関係。
 もっと違う立場だったら、こんなふうに会話も出来ただろうか?

 人間はないものねだりすると言うが、それはオレにも言えるようだ。

 もっと身分が近ければ、彼女に好かれることが出来たかもしれない。
 そう思わずにはいられなかった。

「あの・・・忘れ物受け取ってもいいですか?」

 手当てが終わった彼女は少しだけ言いずらそうに手を出しだしてくる。
 手に持っていたハンカチを受け取りたいのだろう。

 しかし、このハンカチは自分のものだ。
 彼女を誘い出す為の罠。

 それでもオレは彼女にしわくちゃになってしまったハンカチを差し出した。
< 22 / 29 >

この作品をシェア

pagetop