ありきたりな恋
序章:幼い恋
1.合格報告

「・・・・・寒い」
 新幹線ホームに降り立ち、ふと空を見上げると、白い羽根のようなものが風の力を借りてゆっくり舞っていた。
京都から名古屋までは晴れていたけど、東へ進むごとに空は分厚い雲に覆われ始め、静岡は冷たい雨が降っていたかと思うと、横浜に到着するなり、寒さを感じた。
 新幹線の中は空調がコントロールされていたとはいえ、ホームに降り立つと、一気に体感温度が下がり、4月まであと少しだというのに、真冬のような寒さに少し震えながら、ホームを急ぎ足で歩き、階段を登って、改札口を抜けた。
 「和音!!」
 待ち合わせのみどりの窓口前に、元クラスメイトの姿がちらほらあった中で、一人、小柄な女の子が大きく手を振りながら、近づいてきた。
「美玖」
「ひさしぶり」
 思わず抱き合うと、彼女が笑った。
 ・・・・・広尾美玖。中学からの友人で、私の親友。
 同じクラスにはなったことがないけど、隣のクラスになったことがあり、体育や家庭科などで合同授業があり、同じグループになって、気が合い、友達になったという間柄。
「和音、どうだった?」
「合格したよ」
 ニヤッと笑うと、周りの同級生が集まった。
「お前、あの西京学院大学に合格したのかよ」
「すげ~」
 私が在籍していたのは東城学園大学付属高等学校。
 芸術科(音楽、美術)、普通科(理数コース、特進コース)があり、8割近くがそのまま内部進学として大学に進学する。高校入試もなかなかの倍率だったから、「苦労してまで外部進学しなくてもいいかな」とは思ったけど、あえて外部進学を希望した。
 また、元クラスメイトの7割が中学からの内部進級組だったので、男女問わず仲が良かった。
「和音と離れるのはさびしいよ」
「私も」
 再び、美玖と抱き合うと周りが笑い声に包まれた。
「おいっ、お前ら、付き合っちゃえよ」
「美玖、彼氏と別れて私と付き合う?」
「どうしよ~かな」
 172センチの私が152センチの美玖を抱き上げると、美玖はある男に奪われた。
「おいっ、和音」
「はいはい」
 美玖の彼氏であり、私の幼馴染でもあり、同じクラスだった男が睨みつけた。
「冗談よ」
 笑顔で美玖から離れると、みんなに背を向けた。
「さて、会いに行きますか。我が担任に」

 

 
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