ありきたりな恋
2.忘れなきゃ・・・

 新横浜の駅から徒歩で15分。
 中学・高校と合計6年間、通学路として利用していた道を歩き、「心臓破りの坂」を何とか登りきると、正門前には白衣をまとった長身の男性が立っていた。
「よおっ、みんなおそろいで」
「羽柴先生」
 190センチ近くある均整の取れた体型、大学の時はモデルのバイトをしていたというほどのルックスの良さは、高校教師に決して見えなかった。この羽柴先生は白衣とは関係のない数学の担当だった。
 みんなが駆け寄ると、先生は穏やかに微笑む。
 私たちと5歳しか変わらないけど、大人の雰囲気に男女問わず人気があった。
「椎野。お前、良く頑張った」
「先生」
 私に近づくと、頭をくしゃっと撫でた。
 せっかく整えた髪をくしゃくしゃにされるのは、嫌なはずなのに、先生なら平気。
「正直、内部進学か、東京の大学かと思ったが、京都とは思い切ったな。」
「大学には医学部ないでしょ?」
 と、あくまでも冷静に答えた私は、にっこりと微笑んだ。
(・・・・チャントワラエテル?・・・・・)
 自問自答を心の中でしながら、先生から少し離れた。
「椎野・・・・」
「あっ、センセイ」
 別のクラスの女の子たちが先生をすぐに取り囲み、更に先生からは離れた。
 そして、誰にも告げず、ゆっくりとその場を離れ、自宅へと戻った。

・・・・わすれなきゃ。わすれないと・・・・・
 誰もいない自宅に戻り、突然、涙が溢れ出す。
 先生から離れて、新しい恋しないと・・・・
 自分に何度も言い聞かせた言葉をつぶやくと、涙を拭った。
「・・・・オレはお前のこと、生徒としか思えない。生徒としか見れない。卒業しても・・・・か」

 
< 2 / 5 >

この作品をシェア

pagetop