牙龍−元姫−





『はあ?止めろよ、気持ち悪い』




林くんの毒々しい声。



そして嘲笑が教室に広がる。



早苗の肩が僅かに揺れたのを数歩後ろで捕らえていた。私は林くんの言葉に驚きを隠せずにいた。唖然と口を開けて目を見張る。



現役サッカー部員で爽やかな林くんは人望も厚い。1年と言う立場でありながらもレギュラーとして活躍している。人柄もよく生徒からも先生からも人気があるヒト。



ならこの毒々しい声は――――――――――――誰?





呆然と立ち尽くす私達を余所に教室内で笑い声が響く。私達が居ると知っていたなら此所で話すことを止めていたと思う。





『出たよ〜!林の腹黒い顔!』

『早苗その気にさせといてそりゃねえだろ!』

『少し優しくしたらコロッと落ちたんだよ』

『うッわ〜何だよコイツ!最悪だろ!あはははッ』





絶え間無く聞こえてくる笑い声に私は居た堪れない気持ちになる。今すぐにでも早苗の手を掴んで走りたい気持ちになった。



早苗の手は疾うに扉から手を離して耳を澄ましているようだった。―――――――――どうやら未の会話を聞いているみたい。





『だいたいあんな女好きになるわけねえじゃん。脚とかズケえ太いしよ?大根脚だろ。あれ』

『あははは!言い過ぎだって!』

『まぁ確かに林の言うとおりかもな〜。早苗性格はいいけど女じゃねえしよ?』

『いまの早苗面白くなくね?一緒にサッカーやらねえし』





“女じゃない”それを聞き早苗は強く拳を握りしめた。“女”になるためにサッカーを捨てたのに女じゃないなんて言われた事は相当悔しかったと思う。



私は掛ける言葉が見つからず恐る恐る早苗の肩に手を伸ばそうするが次に出た言葉に驚き硬直した。
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